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※画像の本は私物です。

本日レビューさせていただくのは、講談社文庫の『七回死んだ男』です。
西澤保彦先生の第3作で、1996年の第49回日本推理作家協会賞・長編部門で候補、2012年の東西ミステリーベスト100で70位となった、SFとミステリーを融合させた名作です。


2000年代に入り、涼宮ハルヒの憂鬱のエンドレスエイト・ひぐらしのなく頃に・Steins;Gate(シュタインズ・ゲート)・魔法少女まどか☆マギカ・Re:ゼロから始める異世界生活など、ループ物の大ヒット作が多数存在するようになりました。

日本でループの元祖というと1965年の筒井康隆氏の『しゃっくり』かなって思いますが、広く認知されたのは、高橋留美子氏が原作で押井守氏が監督した1984年の劇場アニメ映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』だと思われます。
繰り返される学園祭の前日から脱出しようと苦悩する名作で、その後の様々なループ物作品に影響を与えています。
ただ、原作者の高橋留美子先生はあまりこの作品は好きではなかったみたいですがw

今回の『七回死んだ男』は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』から10年程後に発表されました小説で、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』や『カオスシード〜風水回廊記〜』など、ゲーム作品でループ物が複数発売されていた時代に登場した小説になります。
元祖とまでは言えないものの、こちらも現代のループ物作品に多大な影響を与えた作品の一つではないでしょうか。
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【内容紹介】
同一人物が連続死! 恐るべき殺人の環。
殺されるたび甦り、また殺される祖父を救おうと謎に挑む少年探偵。
どうしても殺人が防げない!? 不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう、渕上零治郎老人――。
「落し穴」を唯一人認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。
孤軍奮闘の末、少年探偵が思いついた解決策とは! 時空の不条理を核にした、本格長編パズラー。
※講談社文庫より抜粋。

※昨年、新装版が発売されたみたいですが、こちらは読んでおりません。
ですので、1998年発行の文庫版の内容でレビューしていきたいと思います。


主人公の久太郎君は、“反復落とし穴”という特殊能力を持っています。
それは“一日を合計九回繰り返す”という能力で、久太郎君が同じ行動を行えば、周りも同じ行動を取り、久太郎君が違う事をすると周りも変化していきます。
ただ、この能力の発動はランダムで、久太郎君が意図して行うことが叶わないので、基本的に同じ日が繰り返した時に「やれやれまた“反復落とし穴”か」といった風に、ループしていることに気付くといった感じです。

ループを小さい頃から繰り返しているからか、まだ高校1年生の久太郎君ですが、実質30年以上の人生をおくっている為、達観していて落ち着きはらっています。
これは、15000回くらい同じ夏休みを繰り返したエンドレスエイトの長門有希に通ずるところがあります。

そんな久太郎少年は、祖父の渕上零治郎が殺されていても、他の大人達よりも圧倒的に落ち着いて思考を巡らせ、事件解決へと奔走していきます。
この行動力、どこかの孫やバーローばりに有能な少年探偵ですね。

タイトルに七回死んだ男と有るため、「主人公の久太郎が七回死ぬのかな?」と読む前は思っていたのですが、実際に死ぬのは渕上零治郎おじいちゃんで、孫の久太郎君が“反復落とし穴”の能力をフル活用して、おじいちゃんの死を回避しようとする物語です。

そういう意味では、まゆしーの死を回避するためにタイムリープを繰り返す、Steins;Gate(シュタインズ・ゲート)のループに一番近いのかもしれません。
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この作品は、基本的に親族間での遺産相続の争いがベースとなっていますので、登場人物も秘書・家政婦・弁護士を除けば全て身内となっています。

遺産を持っているのは、もちろん七回死ぬことになる渕上零治郎おじいちゃんなんですが、元々は堕落して、三姉妹の長女と三女が逃げるように結婚をしてしまい、残った次女と最後の晩餐をして心中しようとしていたのですが、その前にやった競馬で大穴を的中、更には逆バリした株も暴騰し、その資金で飲食店を始めたら全国チェーンになってしまったという、何ともご都合……ゲフンゲフンw
漫画でも今時無いわーと言われそうな、一発逆転の展開で巨万の富を得てしまい、その財産を次女一人に相続させまいと、長女と三女が孫でアピールをして、毎年書きかえられる遺言書をどうにかしようとしていたところに、そのおじいちゃんが殺されてしまったんですから、どこかのドンファンもビックリですね。

基本的に久太郎君の一人称視点で描かれているので、落ち着いているとはいえ、高校生らしい心理描写が2000年代のラノベっぽさがあり、時代を先取りしていた感があります。
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こんな感じのドタバタコメディな文なので、殺人事件のミステリー感は限りなくゼロに近いです。

ただ、コメディタッチでSF設定を加えているというミステリーとしては邪道なタイプにも関わらず、トリックは秀逸で、その種明かしにも矛盾はなく、上質なカタルシスを味わえる素敵な作品です。

これ、今ならワンクールのアニメ化でもしたらヒットするんじゃないかなって無責任ながら思ったりします。
『四畳半神話体系』みたいな感じで構成していけば11、12話くらいで綺麗にまとめることが可能ですし。

それに、アニメヒロインとしても、妹のルナは美少女なのが確定していてお色気シーンもありますし、姉の舞も地味カワにするなど、キャラデザ次第で萌え豚おじさん達を釣ることも可能に思えてなりません。

そして、何よりも友理さんのデレた時の可愛らしさが最高なので、是非ヒロインとして推したいです。
クーデレ好きとして堪らないという個人的な好みですがw

そんな感じで、ミステリーとしてもSFとしても楽しめて、更には一部のクーデレ好きにも嬉しい西澤保彦先生作『七回死んだ男』のレビューでした。
七回どころか一回死ぬ前に読んでいただいて、感想とかを言い合えたら最高かなって思っております。


最後に限りなくネタバレなヒントを下記に。
※ネタバレ苦手な人は閲覧をご注意下さい。一度完読されてから確認されることをオススメします。








お酒と階段には気を付けましょう。
そして、私と同じ上記の文庫版なら156ページが重要ですよ。